これまで前編、中編と2回に渡って、初心者の方でも安全に不動産投資ができるように、物件を評価する方法を解説してきました。
前編ではコーポ・モーガンの物件概要書から、違法建築の可能性など様々なリスクを読み解きました↓
そして中編では、銀行が査定する担保価値を計算して、指値して値切る必要性を見出しています↓初心者の方が見落としがちなポイントを解説しているので、まだ読んでいない人は一度チェックしてみてくださいね↓
この後編では、収益物件の「収益性」をエクセルで評価する方法をご紹介します。収益物件の評価をするプロセスの中で、私はこの作業をStep4に位置付けています。
机上評価のStep1〜5
具体的には、「税引後キャッシュフロー(CF)」と「純資産増加額(NAV)」という2つの指標が投資するのに値するかどうかを判定する作業です。それぞれがどんな意味を持ち、なぜ重要なのかを知っておくことが不動産投資の成否を分けるので、詳しく説明しますね。
判定した後に、このコーポ・モーガンをいくらで指値して購入するべきなのかも言及したいと思います。
コンテンツ
収益評価に利用するエクセルとその使い方
その税引後キャッシュフローと純資産増加額を計算するのには、『Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて(玉川陽介 著)』の付録についてくるエクセルを利用します。
まだお持ちでない方はこちらから購入してくださいね↓
利用するエクセルはこれです↓
このエクセルは、一部の項目を入力するだけで、その物件の収益性を全て自動計算してくれる優れものです。
具体的には、エクセルのB列にある水色の網掛けされたセルに入力するだけです。その多くの項目は、物件概要書などから転記するだけで済んでしまいます。
すると、家賃から諸費用、返済、税金が差し引かれ、税引後キャッシュフローを35年先まで自動計算してくれます(一番下の赤線部)。
税引後キャッシュフローと同じくらい純資産増加額が重要な理由
純資産増加額は、この物件を売却して投資活動が全て完了した時の最終的な手残りのことです。
「税引後キャッシュフローの累計額」と想定物件売却価格(青線)で売却した時に得られる「売却キャッシュフロー」を足した金額です。
純資産増加額 = 保有中の税引後キャッシュフロー累計 + 売却キャッシュフロー
最終的な投資成果を表す一番重要な指標と言えます。
このエクセルでは、純資産増加額とその累計額(赤線)を自動計算してくれます↓
税引後キャッシュフローが黒字なのに儲からない理由
このコーポ・モーガンは単年度のキャッシュフローは黒字なのに、思ったように5年後の純資産増加額が伸びません。その理由は、銀行融資の期間を30年に設定したことにあります。
融資期間を長く設定すると、一回あたりの返済は少なく済みます。キャッシュフローは家賃から費用と返済を引いたものなので、返済が少なければ当然に黒字になるというわけです。
ノンバンクなどで一般的なこの融資条件ですが、注意が必要です。
融資期間を長くしている分、金利も高くなり、元金の返済が進みません。信用金庫などで一般的な融資期間15年、金利2.5%と比較してみると一目瞭然です。
融資期間が15年、金利2.5%の場合は利子払いよりも元金返済が大きいのに対して、30年、3.5%の場合は返済月額のほとんどが利子払いにあてられ、返済できている元金は僅かなのがわかるかと思います。
そして、これが純資産増加額が伸びない最大の理由です。
本来、5年後に購入金額と同額で売却ができたのであれば、元金の返済が進んだ分、売却キャッシュフローが多く出るはずです。しかし、この融資条件では、ほとんどが残債の返済に充てられ、期待するほど手元に残らないのです。
頼みの綱は保有期間中の黒字キャッシュフローですが、これも累計すると違う景色が見えてきます。
コーポ・モーガンの場合、確かに64万円以上の黒字が出る年もあるのですが、初年度の売買諸経費と4年目の外壁塗装の赤字があるので、累計すると7年目までは赤字です↓
これでは純資産増加額は一向に増えませんね。
このように利回り10%で、単年度のキャッシュフローが出ていても、最終的に売却したらたいして儲からなかったということが起きえます。キャッシュフローも大事ですが、純資産増加額も確認してから投資判断することが大切です。
参考)費用の過小見積もりに注意
税引後キャッシュフローと純資産増加額にも注目する必要性を理解してもらったところで、それを計算する上で初心者の方に注意してほしい点にも触れておきます。
それは費用の過小見積もりです。
上述した通り、キャッシュフローは家賃から費用と返済を引いた額です。費用を小さく見積もればキャッシュフローは黒字になります。自ずと純資産増加額も増えるでしょう。
しかし、それは絵に描いた餅です。
特に物件が欲しくて欲しくてたまらない時に多くの人が犯してしまうミスです。私も物件欲しい病にかかった時にはやらかしてしまうことがあります。冷静に費用を見積もる必要がありますね。
とはいえ、まだ物件を運営したことがない人にとって、妥当な費用を見積もるのは難しいです。そこで相場感とその精度を高める方法をご紹介しておこうと思います。
このエクセルは空室損、入居者募集、原状回復リフォームなどの費用を以下の項目を入力することで、自動計算してくれます。
これを現実的な範囲で入力する必要があります。こと、コーポ・モーガンに関して言えば、私の過去の経験から、以下のように設定しました↓
個別に説明しますね。
これらの入力値は、地方郊外でファミリー向け、築古アパート(主に築30年以上)を賃貸経営してきた私の経験則に基づきます。
都心でシングル向けのRCマンションについては、『不動産投資「収益計算」のすべて』の第五章「シナリオの答えを探る」に玉川氏の考察が書かれているので、そちらを合わせて参照することで精度を高めてみてください。
平均入居年数(年)
平均入居年数は、その物件が想定する入居者層によって変わります。以下の調査が参考になります。
引用:https://www.daiwahouse.co.jp/tochikatsu/souken/scolumn/sclm235.html 大和工業株式会社HPより
コーポ・モーガンは単身向けなので、その中央値は平均2-4年です。そこで3年を設定しています。
募集にかかる平均期間
私は募集平均期間を2ヶ月に設定しますが、初心者の人にはかなりチャレンジかもしれません。リフォーム期間に2−3週間は必要なので実質の募集期間は1ヶ月強しかないからです。
募集期間1ヶ月は、物件の立地の良さや賃貸仲介さんと密接な関係がないと実現が難しい期間です。地方郊外の閑散期においては、何もしないと空室は4-6ヶ月が続いてしまいます。
ただ、それだと良い投資にはならないので、なんとか3ヶ月に抑えることを目標にするのが現実的かと思います。
私がそのために行う入居者募集活動については、以下の記事に買いていますので、参考にしてみてください。
https://aloha-lanai.com/category/5-tenant/
平均募集費用
平均募集費用は、入居者募集時に家主側で負担する広告料などの費用のことです。入居者にフリーレントをつける場合は、それも費用として参入します。広告料は地域ごとに相場があるので複数の賃貸仲介さんにヒアリングすれば見えてきます。
このコーポ・モーガンがある地域の場合は、広告料1ヶ月、フリーレント1ヶ月の合計2ヶ月を設定することにします。
平均原状回復費用
費用項目の中で最も見極めるのに難しいのが平均原状回復費用です。退去した人がどれだけ綺麗に部屋を使ってくれたかにかかってくるので、一概にいうことができません。
あくまで参考までにですが、私が設定する原状回復費用の予算の目安は以下の通りです。
クリーニング費用だけでも1ヶ月分近くかかりますし、意外とかかることを念頭に置いておきましょう。
実際には内見をして、先出の「募集にかかる平均期間」で入居を決めるために必要になってくるリフォーム項目を見積もってください。DIYを前提とせず外注するときの費用を設定しておくようにしましょう。実際には想定より費用がかかることがあり、その時にDIYで費用削減する代替案を取っておくためです。
募集にかかる平均期間を短く抑えるために必要なリフォームについては、以下の記事でご紹介しています。
https://aloha-lanai.com/category/kushitsu-reform/
入居率
入居率は上記の項目を入力すれば自動計算されます。何も入力する必要はありません。
ただ、初心者の人が95%の入居率を実現するのは本当に難しいので、それ以上が計算された人はもう一度見直してください。専業の私ですら96-97%ですし、93-95%くらいが現実的な値かと思います。
指値の決め方
エクセルで収益計算をする前提条件をご理解いただいたところで、いよいよ指値の決め方をご紹介します。
一見利回り10%と高い収益力に見えるコーポ・モーガンですが、次の3つの理由から、指値をしないと買ってはいけない物件だと思います。
- 5年後の純資産増加額が145万円と少額で、負うリスクに対してリターンが見合っていない
- 期間30年、金利3.5%と不利な融資条件でしかキャッシュフローを出せない
- 物件価格と銀行評価の乖離が大きく、どのみち融資が受けられないため買えない(中編参照)
そして、どうしてもこの物件が欲しいなら、最低でも3800万円以下の指値が必要になってくると思います。
この指値の決め方ですが、あくまで私、モーガンの投資基準や価値観に基づいているので、皆さんに適しているとは限りません。
それでも参考になるように、指値を決める上で重要になってくる論点を中心にご紹介しますので、ご自身の投資基準に沿って読み進めてもらえればと思います。
論点① 5年後の純資産増加額が投資に見合うか?
くりかえし述べている通り、指値を決める上で最も重要になる指標は純資産増加額です。特に私は5年後の値に注目しています。
指値を3800万円をしたときの5年後の純資産増加額は、145万円から大幅に増えて、478万円になります。
このくらいの金額になってくれば、築浅で10年以上先まで運用が見込めることを考えると、「一般の方」の中には、十分な投資対象と思う方もいるように思います。
「一般の方」と書いたのには理由があります。
私は事業家としてこれまで、5年後の純資産増加額が1000万円以上ないと投資をしてきませんでした。手間やリスクを考えると1000万円以下は小さくて、事業として取り組む妙味がないと思うからです。私が以前勤めていた不動産会社も同じような判断基準がありました。
コーポ・モーガンについては利回りが低いため、その基準では現実的な指値が出せません。ただ、指値を出さないと論点を紹介できないままこの記事が終わってしまうので、少し甘い指値をこの記事では紹介しています。
この基準を鵜呑みすることなく、ご自身の投資基準を導き出すようにしてくださいね。
論点② 融資条件とキャッシュフローが適正か?
先に述べて通り、この5年後の純資産増加額を478万円にするためには、不利な条件で銀行から融資を受けないということも大切です。ノンバンクなどに多い融資期間30年、金利3.5%という条件ではなく、融資期間20年、金利2.5%以下で融資が受けられる金融機関を開拓しましょう。
これは5年後の純資産増加額を減らさないようにするためにとても重要です。初心者の多くの方がこの金融機関開拓に苦手意識を持っていて、自分に不利な融資条件を甘んじて受けている場合があります。
開拓方法はこちらの記事に書いてありますので、少しでも有利な条件を引き出すように試みてください。できれば地域の地銀さんから融資期間15年以上、金利1%代の融資が受けられるように頑張ってみてください。
https://aloha-lanai.com/category/yuushi/
指値3800万円とこの融資条件であれば、キャッシュフローも63万円確保できます↓
これはコーポ・モーガンが築浅物件であることを鑑みると十分な運転資金になり、場合によっては保有期間中に別物件に再投資することもできるかもしれません。
論点③ 指値と銀行評価の乖離が大きすぎないか?
指値は銀行から適正な融資条件を引き出すこととも大きく関わっています。中編で紹介した通り、銀行の評価額と物件価格との乖離が大きい場合は、返済不能になった時の回収リスクが高いと判断されます。
すると、融資期間は短くなり、金利は高く設定され、最悪の場合は融資全体が否認されるのです。
指値をして物件価格を3800万円以下に抑えることができれば、中編で計算した銀行評価の2200〜2800万円との乖離が縮まり、融資が出る可能性が高まります。引き続き30%から40%ほどの乖離があり、簡単ではありませんが、収益還元評価を採用している銀行を開拓するなどすれば可能性が出てきます。
論点④ 5年後の想定物件売却価格は現実的か?
最後に確認しておきたいのが、5年後の想定物件売却価格が現実的なものかどうかです。これを見誤ると純資産増加額は想定から大きく外れてしまいます。
私が行ったシミュレーションでは、想定物件売却価格を3800万円のままとしました。これは費用として織り込んである大規模修繕を行うことで、5年後も価格を維持できると想定しているからです。
しかし、一般的には5年後に売却するときには、建物が物理的に劣化することの他に、
- 銀行評価の計算上、評価額が低くなる(中編参照)
- 法定耐用年数の残存年数が短くなるため、買い手の融資期間が短くなる
ということがあるため、買い手は減少し、売却価格も下がってしまう可能性があります。
5年後の築年数になった時の売却相場利回りから逆算して、想定売却価格が高過ぎないか必ず検証しましょう。
その検証をするときに合わせて確認しておきたいのが、エクセルの欄外にある「ブレークイーブン売却価格」です。
ブレイクイーブン価格とは、将来的にいくらで売却すると購入から売却まで全期間通算で入出金がプラマイゼロとなり損も得もなくなるかという価格(税引後)です。
少なくてもこの価格や利回りで売れることを確認しておけば、大きな損害が出る可能性は低くなります。
コーポ・モーガンで言えば、5年後に3250万円以上、利回りにして14.80%以下で売れれば損にはならないということになります。ここは確実に押さえておきましょう。
まとめ モーガンが収益性を判断する指標:マルチプル
不動産投資の初心者の方は、利回りやキャッシュフローを基準にして投資判断をしようとする人がほとんどです。しかし、これまで述べてきた通り、利回りやキャッシュフローだけなら、よく見せることは可能であり、投資判断の指標としては不十分です。
n年後に売却したときの純資産増加額を合わせて確認することで、より安全な投資判断ができるようになります。
実際に私は税引後キャッシュフローよりも純資産増加額やその派生指標であるマルチプルにウェイトをおいて投資判断をしています。
マルチプルはとても単純な指標で、投下した初期費用(=自己資金)が3-5年後の純資産として何倍になって戻ってくるかを表します。そして、同エクセルが自動的に計算してくれるものです。
指値したコーポ・モーガンのマルチプルは2.26倍になります。つまり、投下した初期費用(=自己資金)が2.26倍になって帰ってくるということになります。
参考までに私は、3-5年で
- 純資産増加額1千万円以上になるか、
- マルチプル4-5倍
になることを投資基準としています。
収益用不動産の購入判断指標は、
・5年後の純資産増加額か
・マルチプル(投資終了時の現金残高➗初期投資金額)を採用することが多いです。
これまでは、5年後に純資産増加額千万円以上かマルチプル4-5倍で購入してきました。
5年後にいくら残るの?という単純な指標なのでお気に入りです。
— モーガン@築古再生不動産投資家 (@tsukubanosorani) December 26, 2021
投資である以上、投下した資金が最終的にどれくらいに増える見込みなのかが最重要な指標と言えます。それに対してキャッシュフローは運転資金の額を表しているのに過ぎません。
税引後キャッシュフローが黒字かどうかに着目するのも重要ですが、純資産増加額やマルチプルにも注目してみてください。
そしてここまでの評価を全て終えてから、Step5の内見に行くようにしましょう。
内見は、ここまで評価した内容が正しいか現地で最終確認するのが目的になります。全て想定通りだった暁には、立ち会ってくれた不動産屋さんと指値の可能性を模索してみてください。
もしどうしても不安だという方は、私が提供する「不動産投資のお悩み相談サービス(有償)」を検討してみてください。購入予定の物件のセカンドオピニオンを提供したり、より安全性の高い不動産投資ができるようにするためのアドバイスをします。
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今回使用したエクセルはこちらの本の付録です。本の内容も目から鱗なので、ぜひ購入してみてください↓
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